虐殺器官(伊藤計劃、ハヤカワ文庫JA)

ようやく文庫化されました。MGSのノベライズも文庫化されたらしいので、じきに読みたいところです。うーむ、積読が増えていく。
・・・序盤。
テロリストの虐殺を追う、国際謀略モノっぽい出だし。MGSっぽくもあり、ジェームズ・ボンドっぽくもあり。ちょっと言語・認識論SFにいきそうな気配。
しかし、凄惨な場面が多いわりに一人称が「ぼく」で夢の中で「母さん」と呼びかけるシーンがあったりと、読み口がリリカルに感じます。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

・・・読了。
ああー、しんどかった。リアルの仕事が行き詰まってるせいもあるのですが、胃に来ますね、これは。
すごい読書でした。それは間違いない。けど、曰く言い難い。
以下ねたばれ。
読んでる最中から、淡々とした繰り返しって印象があるんですけど、戦場(中央アジアチェコ、インド、アフリカ)も敵も味方も毎回違うし、繰り返しとも言いにくい。
殺人の自由と罪の意識とかルツィアへの思いとか、かなりウェットなハズなのに、サラッとしてる。
カフカとか虐殺の歴史とか衒学的な要素もいろいろ詰め込まれてるんですが、作品から受ける印象の重さはそこに由来するものでもない。
解説にある小松左京評の「虐殺の言語についてもっと詳しく」てのも分かる気がします。たしかにもどかしい。しかしそれはマクガフィンのような気もしつつ。「ハーモニー」は「ディストピアSF」と明確にジャンル定義しちゃって構わないと思いますが、こいつはそういう型にはめないほうが良さそうで、そこがいずい。
サラエボで限定核テロが起きたという世界なのですが、なんかタガが外れちゃってるような、だからかえって締め付けてるような、この世界設定が一番恐ろしい気がします。